失った破片を、誰もが忘れてゆく。 ──バロックという傷口以外は。 錆色の傷口を持つ僕たちは、 レコオドの針を落とし続ける。 現実という『今』の傍らで。 胸で結晶して行く現実と、 欠け、歪み続ける細胞の聲。 僕たちは耳を澄ますのだ、 不協和音に気づきながらも。 バロックに、気づきながらも。 なくした破片を、誰もが持っている。 日々生まれ変わる細胞のように。 僕たちはただ、聴いているのだ。 現実という『今』の傍らで。 ほら また錆色の聲が聞こえる。