ぼくには傷がある。
兄さんと引き裂かれた腰の傷のほかにも、幾多の傷がある。
自らがつけた傷がたくさん跡になっている。
自傷癖がある。
刃物で切りつけるというものじゃない。兄さんを犠牲にしてまで生きているこの体に、自分の手で傷をつけるようなことはできないから。
しかし、自分で自分を傷つけるのだから、これは紛れもなく自傷行為だろう。
ぼくは、自分の心を傷つけている。傷が痛むのをわかっているのに、ぼくは何度でも傷をつけ、傷を広げるようなことをする。
過去を、自分のしたことを思い出すのだ。
血を見たいわけじゃない。痛みが無いわけじゃない。憐れみや慰めが欲しいのでも、哀しみに暮れたいわけでもない。 感傷に酔っているのだ。兄さんは帰らない。
苦しいのが好きなのか? そうかも知れない。痛みに逃げ込んでいるのかも知れない。
自分を正当化したいのかも知れない。言い訳なのかも知れない。自分を憐れんでいるだけかも知れない。
ひとりよがりなのだろう。けれど……
傷は、腰の傷とリンクしている。ぼくは兄さんとの繋がりを少しでも多く持っていようと、傷を見つめ、新しい傷を増やしているのだ。
昔の傷が癒えてきたころ、あるいは衝動的に刃物をあてる。そう、痛むだけなのを知っていながら。
ぼくは、兄さんを忘れてゆくのが怖い。兄さんを忘れたくない。忘れることは許されない。傷を癒してはならない。この腰の傷と記憶は、このまま残るべきものなのだ。
ぼくは自傷を繰り返す。
傷跡に、ぼくたちがいる。